大井川の小石

以前からかなり気になっていた「大井川」を遡る「大井川鉄道」にて静岡県北部の急峻な南アルプスを訪れた。
前日は、島田駅近くのビジネスに泊まった。しかし見渡しても東海道島田宿の名残は見えない。夕食は島田の隣町焼津の「黒潮」という割烹でとった。マグロ、ハマチなどの刺身、エビや野菜のてんぷら、若鶏の煮込み、京風の根菜類の煮物など日本酒に合う御膳をいただく。ビールの後、洞爺湖サミット夕食会乾杯酒に出された「磯自慢」を注文する。とにかく初日の疲れを食事で癒した。
翌日早朝、寒さで目が覚めた。電源ボタンが死んでいる。そのエアコンは壊れていた。仕方なく体を温めようとビジネスを出てコンビニを探した。しかし、駅前なのにコンビニはない。しかたなく駅舎の犬小屋のようなコンビニ(NEW DAYSではない・・・なんだっけ)でホットコーヒーと三角サンドを立ち食いする。そして隣の駅金谷に移動した。

金谷駅周辺にも、喫茶店などの腰を下ろせる空間がなく、昔っぽい駅待合室で自販機のコーヒーをすする。接岨・寸又峡周遊きっぷ(2日間3900円、鉄道とバス乗り放題)にて大井川上流域を巡ることにした。発車10分前に、その鉄道客車に乗る。2両編成。ドアや座席はかなり古い。昨年富山地域鉄道に乗ったが、その車両や駅舎もかなり古かった記憶があるが、大井川鉄道の方がより古いようだ(SLを走らしているだけに、歴史があるのであろう)。最近では機関車トーマス号が子供たちの人気を集めている。

大井川に沿って列車は移動する。大井川河床はとても広い。中学の地理の授業で配られた日本地図が思い出された。大井川の川幅のほとんどが砂のドットマークで埋められている。そのなかに蛇が這ったような、青色の細い流路が記されている。「なんでこんなに無駄のある川だろうか。」なにせ、関東の荒川や江戸川は、川幅いっぱいに水が流れているから、川幅全体が青い色で塗られている。現地に行くと、川と言われるほとんどが灰色から白い礫からなる。洪水時の流れで作られたであろうアートの三日月のようなきれいな放物線の集合体は、まるで枯山水の日本庭園に見える。

家山駅で降りる。金谷駅のポスターで、桜祭り開催とある。1週間前から。少し寒いが早咲きの桜なのであろうと、歩いて会場を探した。見渡すと、さくらはつぼみも小さいソメイヨシノである。提灯はいっぱい連なっている中、わずか1本の日当たりのよかったであろうサクラに、花弁が3輪だけ咲いているのを見つけた。町の人も出ておらず、1組の家族が寒い中、持参したであろう弁当を食べている。めずらしい風景である。町の総合運動場では「桜マラソン」があるとされ、スピーカーから事務連絡が聞こえてくる。これからスタートだという。ランナーもさびしい思いで走るんだろうね。これも町史に残る1ページとなるのか?
駅前にピザ屋があり食べたかったが、焼いているうちに次の電車が来てしまうことからパスし、仕方なく上流を目指した。
「箱根八里は馬でも越すが、越すに越されぬ大井川」と東海道の最大の難所に位置付けられていた。これは橋が架けられないほど「すぐに流路が変わるほど暴れる川」ということに気付く。その証拠にどこをみても雑草などの植物が生える部分がない。大雨時には川幅いっぱいに水が流れるのであろう。東海地方の降水量は他の地域よりもずっと多いはずであるから。
しばらくして、自分の斜め前に座っている女子高生くらいの女子2人のしぐさが気になった。飛び切りではないもののかわいらしいその2名。やけに距離が近く、友達というじゃれあい方ではないそのしぐさ。瞳の奥に柔らかな風が吹いているようなそのまなざし。どうも周りのおっさんにも気配りする様子もない。村上春樹の「1Q84」に出てくる青豆、その10代で経験したような、カップル関係が想像できる。最近、婚姻届?も出せるようになったこの時代である。このようなカップルは増えていく傾向にあるだろう。
大井川沿いには、山裾にある低い台地(低位段丘面)とそれよりもやや高い扇状地に集落がみられる。また狭い急斜面に茶畑が幾重にも連なる。狭いところにも霜防止ファンが回転する。ここは高級茶の産地である。看板がすすけているが、「川根茶、奥大井茶」など、静岡の中でも名だたる高級茶の産地とみる。茶摘みに向け、きれいに頭が刈り取られている。ものすごく長い抹茶ロールケーキのような刈上げは、全く持って見事な職人芸である。それとも形状統一自動刈取りの機械施工か?。

千頭駅で、軌道の狭いトロッコ列車のような南アルプスあぷとラインに乗り換える。
アプト式とは、90パーミルという急こう配に対し、後ろから押し上げ補助をする機関車システムのことだという。中部地方整備局の長島ダム(高さ109mの重力式コンクリートダム)により鉄道勾配が急になったことで採用された新しい方式なのである。そのため2駅で切り離しがあり、そのたびに駅員総出で機関車脱着作業に取り組む。その中に女性車掌がいる。彼女は羽倉という名札をつけ、周りの駅員から「ともちゃん、ともちゃん」と愛称で呼ばれている。3年目くらいの初々しさがあり、まじめに乗り降りのアナウンス、名所紹介、鉄道の由来など暇なく車内電話を握っている。また各客車は不連続であり「箱根登山鉄道もそうであったように、通路空間が保持できないほどカーブがきつい」外に降りて、各客車を毎回移動し、切符の拝見や乗り越し精算を行っている。おまけに手動式客車ドアのロックまで目視確認するため、発車前は小走りで移動するとてもせわしい勤務である。頭が下がる。

再び河床を見下ろす。大井川河川敷には同じ大きさの小石が敷き詰められている。普通の上流の川では、大きな岩塊も混在してくるが、ここ大井川は違い、枯山水の庭をほうふつさせる。なぜか考えた。おそらくであるが、あのような高い南アルプスを形成する際には、通常の地域よりも大きな地殻運動を受けたに違いない。その結果、硬い岩盤に無数の亀裂が入る。その亀裂の密度が高いことから、大きな岩石の塊が無くなってしまい、ほとんどが細かく割れて、小石になってしまうのではないかと。また砂はどこへ行ってしまったのか。おそらく洪水時に太平洋に押し流され、沿岸の砂浜を形成しているのであろう。その後沖合に運ばれ、南海トラフの深い静かな海へ沈んでいくものもあるだろう。
外国の俳優さんの様に、レイ・バンの粋なサングラスをかけた若い夫婦と、その上品そうな子供が乗ってきた。その子供は、きれいに刈られたお茶畑を通過するたびに、大きな声を出していた。その気持ちよくわかるくらい自分も感動している。芸術だよね。
後日ホームページで銘茶を確認した。やぶきた茶:大井川上流の川根町で、川霧のかかる自然仕立て、他にも、標高600~800mの山独特の香りと口に残るさわやかな甘みが特徴、など大井川ならではの茶として栽培されている。
Short traveler

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