金沢でみた江戸の風情2015

金沢は3回目である。25年前、大学の友人と能登半島を巡り金沢の近江市場で海産物を買い込んだ。2回目は6年前、秋田事務所からわざわざ金沢での仕事のため立ち寄ったこと。今回は能登半島における仕事の中で、休日を利用して立ち寄った。


まずは、茶屋街へ。二軒くらいの細い石畳路地を進む。いくつもの黒褐色の木造りが並ぶ。格子の隙間から障子も見られ、江戸の情緒を感じ取ることができる。ある茶屋(屋号は土屋)に入った。芸妓さんがいるわけではないが、その昔は数人在籍していたそうである。二階に通された。目の前に浅野川がゆったりと流れ、柳が風にたなびく。20畳ほどの部屋は、江戸客間らしく豪華な欄間や、金箔を施した漆細工を陳列してある。

自分1人で静寂を味合わせてもらった。アイスコーヒーを頼む。すぐに冷やした玄米茶と和菓子が出てきた。聞いてみるとアイスコーヒーができるまでの繋ぎお通しだそうで、粋な計らいである。その5分後に九谷焼に入ったアイスコーヒーとクッキーが出てきた。なんとも客の心をつかんでいる。タイムスリップしたような江戸の空間とおもてなしを満喫した。

1時間後、浅野川を渡り、ひがし茶屋街を訪れた。ガイドブックでも有名であり、加賀友禅を着た女性(観光客向けに貸し出している)や外国人が多く見られた。街の中は、九谷焼やガラス工芸品、金箔の漆器、そば屋などが並び、目を飽きさせない。やはり光り物が人を呼び寄せるようである。とある土蔵は全面金箔張りでとてもまぶしい。

歩いていると、1軒の茶屋に「昼のお座敷」と書いてあった。1時間くらいで、お茶とともに小唄で踊りを見られる(2000円)とのこと。丁度30分後からであり、予約してみた。入ったのは、30歳くらいのカップル1組と自分だけ。
お座敷に通され、まずお茶が出てきた。雀さんと源氏名を持つ芸妓さん(おそらく60歳前後)がひがし茶屋街の説明をしてくれた。現在でも20名は在籍しており、大切な商談などのお座敷を担当するそうだ。
座敷の空気感を読むことがもっとも要求される仕事とのことで、東京では銀座クラブのママよりも上等上品と言える。彼女らには江戸から受け継がれた誇りがある。背景には身売り、貧困 で仕方なくお座敷にあがった日本の陰の伝統があり、現代の若者のように帰る場所のある芸妓はいなかった。またデジタルな世の中と違い、先輩の姉様から「厳格なおけいこ」の中で培われた、“カン”“空気の読み”“間合い”等だけを頼りに芸を極めてきたのである。しかしものすごいアナログの中にこそ真の繊細さが宿り、崇高な技が伝授されているのであろう。今の若い女の子では厳しすぎて続かないらしいが、なんとか伝統を守っていただきたい。


こののち、3分くらいの小唄(三味を弾ける人がいなくなっているためカセットテープ)で「加賀鳶」を披露してくれた。加賀鳶とは江戸の大名火消であり、明暦三年の江戸大火で活躍しすぐれた消化方法、と勇猛果敢なことから、天下御免の加賀火消しと全国に轟いたそうである。そのとおり、踊りも男踊りであり、大火を目の前にまといを準備するさま、火に飛び込んでいくさまを短い時間で表現している。座敷とはとても奥が深い。この歳にしてはじめてその一部を垣間見ることができた。

街へ戻ると丁度加賀百万石祭りが行われていた。北陸新幹線の開業も重なりかなりの人出らしい。目玉は前田利家が金沢城へ入場する様を再現した「百万石行列」である。先頭の横断幕を掲げる行列から2時間も掛かり様々な行進が見られた。ツエーゲン金沢(J2)、加賀友禅大使、音楽パレード(石川県警音楽隊、金沢市消防音楽隊、陸上自衛隊第10音楽隊、その他中学高校生の吹奏楽とバトンチーム)、その後柔道ロンドン金メダリスト松本薫(石川県)、ミス百万石3名、獅子舞行列、加賀とび行列、尾山神社御鳳レン(御神輿)、珠姫(徳川二代将軍秀忠の娘)お輿入れ、お松の方(利家の奥方:今年は菊川怜)、加賀八家老行列、前田利家(今年は内藤剛志)、赤母衣衆(馬廻しの精鋭武士)と続いた。暑いさなかであり、観客の1人が救急車で運ばれてしまったこともあり、かなりの熱気で包まれた。

夕刻になると、金沢城址で「薪能」が始まった。これまで狂言・能を見ることはなかった。まず小学生くらいの子供能からはじまる。舞台の動きとせりふはよく練習されているようだ。夕刻がいよいよ深まり、薪が点火された。その篝火をはさみ、中央の舞台でいわゆるプロの能が始まった。先ほどの芸妓さんとはまた違ったさらに厳格な空間と、凛とした張りつめた空気が漂う。日本の伝統を演出し続けている。ギャラリーの半分は西洋の外国人。当然神がかり的な、どこか神聖な空間に対し驚きつつ観賞しているのであろう。

残念ながら新幹線の時間が迫り、この場を離れることに。帰り道で兼六園のライトアップが見えた。この時期のみ無料開放とのことで、少しだけ入ってみた。琴脚灯篭が見事に浮かび上がっていた。これを急いで撮影し、タクシーで金沢駅へ向かう。途中に祭の法被姿の行列をみかけた。市民の流し踊りが終わったらしく、百万石まつりのフィナーレだそうだ。金沢市民もこの時期とても疲れるのであろうが祭り好きの体質なのであろう。また今度、見残しを埋めようと誓いながら、首都圏へ直行できる“かがやき”に乗り込んだ。
Short traveler 2015(短旅評論家)

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