2016 成人の日前日・駿河湾から富士を望む

2016 成人の日前日・駿河湾から富士を望む

恥ずかしいことであるが50歳にして初めて英会話レッスンCDを聞く。東海道線に乗りながら、イヤホンで。このため3連休中日早朝の1号車隅のトイレで繰り広げられている惨劇について、ほとんどというか、ほぼわからなかった。かなりの乗客がその方向を見て顔をしかめている。そのしかめた顔だけ、BOX席の隅から確認できる。どうも深酒朝帰りの若い男性2名が、トイレを占有していたが、降りる間際にドアが開かれたままとなっているようだ。彼らが降りた後、近くの乗客が用を足しに入ろうとしたが、すぐに戻ってきた。手ぶりからどうも相当汚れているらしい。我慢できないのか、またどこかへ行った模様。しばらくして車内アナウンスが流れた。「1号車のトイレですが・・・汚れて使用できない状況らしいので6号車のトイレをご使用ください。お忙しいところ申し訳ございません・・・」
彼ら若者は、3連休の初日で3日分の疲労を味わったんじゃないかな。明日は成人式であるが、市町村での日程はまちまちで、もしかして昨日成人式があり、そのまま深酒したのか?いろいろ考えていると、BOX席は横浜からの初々しい若者女性に囲まれた。話しぶりと身なりから見てどうもこちらも朝帰りのようだ。それもそんなに仲良くなさそうな、何処かよそよそしく、1人ずつ停車駅で降りていく。爪はゴールドベースに黒い小班点がちりばめられた、そんな長い爪でスマホを操作する。最後の1人が国府津で降りる。今度は気難しそうなおじさんが乗り込んできた。デイパックに山用のズボンとトレッキングシューズ。箱根当たりでの散策とみた。案の定、早川駅で降りた。
自分は三島駅で降りる。その昔、江戸に向かう東海道三島宿では箱根越えの準備をするために多くの旅人が宿泊したとみられる。このためたいそう賑わっていたことが推測できる。詩人・若山牧水の碑文があった。「要約すると 牧水の出身の沼津では愛鷹山が邪魔で富士が見えないが、ここ三島では愛鷹山が左に除け、富士の頂がよく見える・・」と今ではビルだらけで見えない富士を探したところ、主要県道沿いに当時のその姿を見ることができた。

三島はきれいな湧水の街でもある。また今日は三島市の成人式が行われるらしく、晴れ着をまとった新成人が、会場に集まってきている。明るい陽射したっぷりの快晴の青空の下、やや派手な紋付き袴をまとった男子、伝統的な振袖をかざした女子が、清らかな湧水の街を闊歩する。特に三島の女性は美しい。三島大社で何枚か写真を撮らしてもらった。みな晴れやかで済んだ美しい表情を見せてくれた。これも清水の湧く三島の街がはぐくんだに違いない。その後、社の上空に快晴の青空を見せる三島大社を参拝する。神馬に奉納するための絵馬が脇に飾られていた。非常にすがすがしい。

三島文化センターではもうすぐ成人式が始まる。それに遅れそうになり、振袖をつかみ上げ急ぐ姿も初々しい。また多くの親御さんが車で横付けにし、送り届ける様子も見られた。
新成人が会場へ姿を消すのを見届け、自分は清水へ移動した。

 

以前から気になっていた駿河湾フェリー。清水港―土肥港を65分で結ぶルートである。土肥に渡ると電車がないので、往復するクルージング券(40%ほど割引)で乗船する。土肥は陸の孤島である。
その昔は断崖が連続するため山越しかなく、それも起伏が激しいことから難所であったに違いない。温泉もあるが、その当時は金山もあったようで、関係者は海上から入所または厳しい山越えをしたのであろう。しかし何で今でも太い道路(有料道路など)ができないのか。国立公園で規制しているからか。いろいろ考えながら乗船した。

清水港を出港した。2階デッキは中国人で埋められている。よく見える富士をバックに盛んにシャッターを押している。ある団体からカメラを渡された。以前箱根で中国人が言っていたあの掛け声を試してみた。「ハーイ、サン・ウー・ソー!!」言ってみたが皆さんの反応が薄い。あれ、これは共通ではなかったのか?まあいいや。2枚くらい撮って差し上げた。

港内はおだやかで、皆さん盛んに好天気の絶景富士(しかし雪が少ない・・)を撮影していた。しかし駿河湾中央を過ぎたあたりでフェリーはややピッチ方向に揺れだした。しばらくすると、またある中国の若い女性からアイフォンを預けられた。その方は自撮棒で富士山を収めたかったのであるが、ピッチが大きくなり傾くようなのだ。こちらもタイミングを計り、水平な海面と富士とその女性をうまく収めた。確認してもらうと、とても喜んでいた。今回は「スリー、ツー・ワン!!」と無難に済ませた。

さらに伊豆半島に近づくと、うねりが大きくなってきた。ジブキがデッキまで上がるほど白波が船体にぶつかっている。船全体がゆっくりと大きく揺れだした。周囲の観光客の顔色も蒼くなってきているのがわかった。ごみ箱で直接吐き出す女性、手提げの紙袋に吐き出す男性、展望レストランの手すりが離せず、動けなくなる男性。概ね中国の方である。こんなに雲がなく空は穏やかであるはずなのに、このような太平洋の南方からやって来るうねりを体験することは無いのであろう。飛行機は乗り慣れているのであろう。私も頑張った。座ると三半規管がヤラレルのではないかと思い、デッキ中央でバランスを取りながら立ち続けた。膝と手を使い、自分の頭だけ水平を保つ。傍から見ると滑稽に見えるかもしれない。しかしそんなことは言っていられない。

富士山方向をみると、ウミネコが青空をすがすがしく羽ばたいている。すかさずシャッターを斬る。鳥はいいよね。船酔いは絶対無いからね。もうすぐ土肥港に着くのに、うねりはますます強い。このうねりはどこから来るのか?おそらくはるか南方の熱帯性低気圧がまき散らしているのでしょうね。大きなうねりは、伊豆半島にぶつかり、東の相模湾と西の駿河湾に分割される。そのため伊豆半島に進行できない波が岸辺ではね返され、重ね合って波が高くなるのであろう。今の大きな船でこれだから昔は相当揺れたに違いない。富嶽三十六景のなかに大波がお化けのように小舟に襲い掛かる風景画があったが、まさにそうなることを実感できた。

土肥に接岸する。自分以外は皆肩を落としてというか胸をなでおろして、全員降りたようだ。デッキや客室の汚物を掃除する乗務員から、「クルーザーチケットをお持ちなのは珍しいですね」と言われる。そうだろう。短時間とはいえ片道65分の船酔い我慢大会の2セットだ。好んで行う客は少ないことを納得できる。この快晴の高気圧で覆われた良好な日に、こんなに揺れるのであるから、夏場なんかは想像できない。

土肥発の船の乗客は少なかった。見渡すと日本人が多い。デッキでは離岸してすぐに大波を受け、しぶきが舞う。快晴に小雨が降っている様である。自分は往路で試したスタビライザシステムで、自分の頭部のみ水平を保つ。デッキにはそんな滑稽な自分と、小学校高学年と中学年とみる姉妹と、そのお母さんの4名しかいない。子供たちはこのとんでもない大揺れが大好きみたいで、鬼ごっこを始めた。デッキ端部から端部まで駆け回る子供達に「やめなさい!!」としかりつける母親。しかしその母親もローリングに負け、一時退場する。姉妹は再び駆け出し、デッキ中央でバランスをとっている自分の周りをぐるぐる回りだす。これを見る自分の目が回り始め、止めてもらえないかなと思ったとき、「バン!」と姉様がバランスを崩しデッキ端部の柵にぶつかり倒れ、それを追ってきた妹の頬を「パン!」とひっぱたいた。2人は泣いた。そこへ母親が入場してきた。妹はすぐに泣き止む。姉は相当痛かったのか、デッキに座り続ける。母親が何か姉に申し付けている。
[なんで姉が自分でつまずいてぶつけた失敗のために、ビンタされなならないの!!!] と、妹が心で叫んでいるのを感じた。
なんとも、今日は朝から「酔う」というテーマで終始した1日であった。

伊豆半島西端に延びる大瀬崎越しに見る富士
2016 Short traveler

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